対象者である夫と、その男友達の二人がゴルフ練習場に到着して1時間半、間もなく午後7時になろうとしていた時、打席から引き揚げた。
我々も調査用車両を正面に移動し、再度の車両尾行に備える。
5分程で対象者ら二人は対象車両に乗車した。助手席の友人が車内でスマホを見ている。何かを調べているようだったが、3分程で走り出した。
車両尾行再開
車は江戸川区内に在るステーキ屋の駐車場に入ったが、窓越しにも店内が混雑していることが分かる為か、店内には入らずに再び都心方向へ走り出した。よかった、この店に入られたら会話を聴くどころか近くに座ることすら無理であっただろう。
店内で会話の録音
車は更に西へ進み、千代田区内のファミリーレストランの脇に停まった。都心部である為この店に駐車場はないが、休日の夜である為、目の前の道路の白枠はガラ空きである。
対象者と友人が店内に入った。
このような場合、探偵はどうするか。対象者らの会話を聴ける位置のテーブルに座れたとしても、調査員が2名一緒にいて黙ったままというのは不自然になってしまう。かと言って、調査員同士が世間話をしていては、対象者らの会話の録音に支障がでる。よって今回は、A調査員に1名で店内に入ってもらった。勿論、会話を録音しやすい集音マイクを施したカメラを回しながらである。
本当は私が店内に入りたかったが、先程ラブホテルで対象者である夫と同じエレベーターに乗っていたので一応やめておく。人間の記憶なんていい加減なもので、今日の状況であれば夫が私の顔を覚えていることは、まずないが、少しでもリスクの低い方を選択したというだけである。
調査用車両からでもすりガラス越しに店内の様子が分かる。A調査員は、うまいこと対象者らの隣りのテーブルに座れたようである。
私は調査用車両の中で、再度依頼者である奥様に電話をして、この状況を報告した。状況からして、この店を出た後は夫が友人を車で送り、そのまま帰宅するであろうから、店を出た後の調査は不要とのことであった。会話が撮れているかどうかは、後程A調査員のカメラを確認してからなので、翌日以降に改めて報告することになった。
A調査員に「依頼者と打合せ、この店出た以降の調査は打切り、不要なので、対象者らが会計をしても、そのまま店内にいてください。対象者らが走り去ったら、俺から連絡します。」とLINEで連絡をしたところ、「了解!スゲー会話してますよ。撮れてることを祈ります。」と返信があった。
こうなると、私も会話の中身が気になって仕方ない。
午後10時02分、対象者ら二人が出てきた。私は調査用車両の中からその様子を撮影し、対象車両が走り去るのを見送ってから、A調査員に戻ってくるよう指示をした。
不審女との関係判明
直ぐにA調査員が調査用車両に戻ってきて、早速、撮影した動画のデータをノートパソコンにコピーし始める。コピーの最中に
「要は、あの女、野郎の元生徒で、全然別れられないから嫌々会ってやってるってことみたいですね。」
と教えてくれた。
A調査員のその後の説明と、依頼を受ける際に妻から聴いている話、そして撮影した動画を詳細に確認した結果、次のような話がみえてきた。
・ 対象者である夫は10年以上前までゴルフスクールの先生であり、この不審女はそのときの生徒であった
・ 夫は、他の複数の生徒とも肉体関係をもっていた
・ 夫は不審女のことを何とも思っていなかったが、不審女は一方的に惚れこんでしまった
・ 不審女は夫に嫌われたくないので、今や完全に夫の言いなり状態
・ 不審女は夫が既に結婚していること等、知る由もない
・ 夫としては、妻に知られないようにすることこそが妻を幸せにすることだ
・ 夫から不審女に別れを切り出せば、どんな風に騒がれるか分からないし、もし調べられて妻の存在を知ったら厄介なことになる
・ ならば、たまに会ってやれば、それで満足するからこのままで良いであろう
・ しかも、明らさまに「お前のことなんか好きじゃない」って態度で接してやって、惚れさせないように配慮してやってるんだ
・ 不審女を嫌っているのに会ってやっているんだから感謝してほしいくらいだ
・ 長い付き合いで、体の相性だけは抜群だし、まあ、このままズルズルでも仕方ないであろう
中々のクズっぷりである。確かにこういう男は一定数いる。しかしクズだ。
ちなみに普通の調査では、ここまで話を把握することは難しい。今回運がよかったのは、対象者である夫と一緒にいた友人が、この話を面白がって聞きだしていたのでである。この友人は、対象者のこの話を楽しみにしていましたとばかりに、自ら話をふっていたのである。そしてこの友人も夫に対し、
「本当にお前もクズだよな。こんな話、奥さんよりもその女に知られる方が怖いわ。バレたらお前じゃなくて奥さんの方が殺されるんじゃない?どうしたら、そんなに冷たく出来んだよ。俺もその位の遊び人になってみたいわ。」
とゲラゲラ笑っていた。
どうやら、会う度にこの話題になっているようだ。
調査結果の報告
さて、浮気調査の成果としてはまずまずであるが、夫のあまりのクズっぷりが含まれた内容をどうやって依頼者である奥様に報告するか、慣れてはいるものの今回は少し気が重い。とはいえ、嘘を報告することもできないので、これらの調査結果を報告書にまとめ、今回の撮影動画については会話を一字一句漏らさず書面にした「反訳書」も作成した。
後日、奥様とお会いして調査結果を報告した。
夫の酷い面を知ったというショックも少しはあったようであるが、自身に知られないようにしていることや、ある意味、浮気相手のことを全く好きではないという点については、ちょっと違うけど風俗の延長線上かなというように受け取られたようである。
そして奥様は
「今度、玄関からシャワーへ直行したら、「ねえ、浮気してないよね?」って笑顔でちょっと言ってみます。それでまたタイミングみて、確認程度に調査をお願いするかもしれません。」
とのこと。
こうしてこの浮気調査は終了となった。
私としては、この夫が不審女とどう別れたのかが気になる。そして不審女には、早く新しい男を見つけて幸せになってもらいたい。
完
※本コラムにおいて当事務所の取扱い事例を紹介している場合は、事実を脚色することなく記載していますが、当事者の特定等を避ける為、調査事実を歪曲しない範囲で設定(関係者の職業や道路、建物の位置関係等)を変更しています。また、掲載にあたり、必要に応じて依頼者の承諾を得ています。